
1971年、神奈川県生まれ。1999年、早稲田大学修士課程(建築学専攻)修了。1999~2001年、日本女子大学住居学科専任助手、2004年同大学博士課程修了。学術博士。2005年4月よりドイツのドレスデン在住。活動範囲は、建築およびその周辺の取材・執筆、翻訳、ピアノ伴奏
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2007年のクリスマス直前というハタ迷惑な時期にドレスデン市内の病院で子供を生みました。
ドイツ語で「分娩室」はクライスザール(Kreisssaal)。クライス(Kreis)という言葉が円形やグループを意味するので、そこから派生したか何か由来でもあるのだろうと思っていた。しかし、クライシェン(Kreischen)という動詞に関係している、と病院の助産婦が教えてくれた。意味は「金切り声をあげる」。
なるほど、産科病棟で耳をすますと「アアァ…」という陣痛時の痛み逃しの声が定期的に廊下にまで聞こえてくる。やがて断末魔のような絶叫に耳をふさぎたくなる瞬間の後、ホンギャァ~と生まれた赤ん坊の声。
そのクライスザールには、陣痛促進剤の点滴開始から分娩まで約24時間滞在した。つまりLDRルーム。キャビネットや収納棚や扉は木製で壁はイエローなのだが、居間の雰囲気を狙ったわけではなく、ドイツの病院や診療所はどこも「どっかのお宅」にお邪魔しているような雰囲気の内装が多い。陣痛に耐えるためのゴムボールやぶら下がるための布やマットレスがあり、CDプレーヤーも完備。当然ながらクリスマスの飾りも。かけつけてから最後まで約20時間つきそってくれた夫も同じ部屋で過ごすことができ、夜中にはIKEAの椅子の上で睡眠をとらせてくれた。
その後の病室も淡いイエローの壁、そして天井からは真っ赤なカーテンが。一応病院のはずなんだけど…としみじみと見てしまう。
妊娠出産は病気ではないが、日本で見かける白い壁に金属チックな器具類に囲まれると痛々しさが助長される。その反動から「妊婦がリラックスして出産まで過ごせるように」となると、いきなり花柄ピンクのカーテンやミッキーマウスのクッションが準備されてしまう。
普段の生活の延長のような部屋、成り行きで分娩にまで付き合わされてしまった感のある夫、見慣れたIKEAの椅子。出産という行為を日ごろの生活から隔離するのではなく、日常の一部としてとらえることのできた「金切り声の部屋」での出産体験であった。