有馬裕之(ありま ひろゆき)

1956年、鹿児島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、1990年、有馬裕之+Urban Fourthを設立。 主な作品に 「MA」「太宰府の住宅」「introspective」「ab」「second plate」「studio D」「M/異化された場」。 現在、コンセプトプログラム「earth lounge」を進行させている。

Jun 07 2008

ベローナにて

この数日思いだしている。今年の冬に訪れた教会のことだ。

早朝に、ベローナのはずれの小高い丘にある古い村落に行った。
現地の人が知るだけのそれほど知られていない約2000年前に完成した教会。
前の日から続く濃い霧の中。
rosso bellonaの小さな石片を荒く積み上げたこの教会には「素形」という言葉
がぴったり。屋外の半地下のようなところに信者の住居跡があってそれは斜面に
出来た窪地を利用した簡素なものだった。
キリスト教が弾圧されていた時代に作られたと聞いた。
教会内には無色ガラスの入ったステンドグラスがあって微かな光が入っている。
薄暗闇の中、微かな光の明るさ、素材の持つ荒さは消え現実感は消されていた。

先月ミラノから電話があった。
春に行なったインスタレーションについてだった。
「好評だった。たくさんの人が訪れていてその静けさを楽しんでいた。画廊主の
jannoneも喜んでる。」
規模の小さなものだが、意図したことが伝わる事は幸せだ。
厚さ35mmの無垢の楡の木を削り出し直径3500mmの円形に組んで高さ500mm
に浮かべる。空間内に削り出された木の匂いが立ちこめる。
倉庫のようなそのギャラリーは素朴でこのままなにもする必要が無いように思わ
れた。
訪れた1月には丁度写真展が行なわれていて、それはヌードの連作だったのだ
が、何とも言えない艶かしさだった。
ここでのインスタレーションは形やモノでは無く静かな「匂い」でいい…と思った。
女の裸体のその艶かしさが意識をインスパイヤーしたようだ。
自然光のみで浮かび上がった削り出された無垢の木のステージ…その「匂い」…訪
れた人々の意識に微かな余韻となればと思っていた。
ギャラリーを出てその後、ミケランジェロホテルで待ち合わせたtachiにはすぐ
会えた。ヌードの持つ素形の艶かしさを余韻として残したままの1時間半程のド
ライブ。
相変わらず霧が立ちこめていて視界は悪くベロ−ナに近づけば近づく程濃くなっ
て来て50m先も見えない。
車はハイウェイを降りてベローナ郊外の倉庫や工場が並んでいるエリアに到着した。
降りて鮮やかな冬芝の緑の上を歩く。
突然、四角の黒い塊があった。
近づいてみるとそれは石で作られたキッチンだった。
天板のシンクのようなところに水が溜まっていてレモンがいくつか浮かんでいる。
霧雨の中でそれは彫刻のように見えた。
芝生の上にセットされ霧雨に表面は艶かしく黒く濡れていた。
料理と言う機能はここではあまり意識されていないようだ。
制作者のalbertoと話しをした。「キッチンのこれまでに無い違った崇高な姿
を作りたい。」と話していた。
終日を彼やその仲間達と過ごしたがしばらくその向かう先を見てみようかと思う。
そして彼等によって連れて来られたのがこの教会だ。
単なる機能を超えたところにある崇高さ。
2000年前の教会とキッチン…妙に納得してしまった。

教会の外に出ると白い犬が突然近寄って来た。まだ霧は深いままだ。
飼い主が遠くで名前を呼んでいる。犬はそれが気になりながらもじゃれてくる。
頭の中で、ミラノからベローナ/ギャラリー/ヌード/無垢の木/霧/教会/
キッチン…と巡っていた。

教会を見た日に最後に皆で食べた食事が長引いた。
乗ろうとしたICには乗り遅れミラノへは鈍行列車での帰りとなった。

1:44 PM

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