有馬裕之(ありま ひろゆき)

1956年、鹿児島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、1990年、有馬裕之+Urban Fourthを設立。 主な作品に 「MA」「太宰府の住宅」「introspective」「ab」「second plate」「studio D」「M/異化された場」。 現在、コンセプトプログラム「earth lounge」を進行させている。

Jan 19 2008

熱帯/タロキチ

ぎらぎらと太陽はすでにかなり上空にある。
部屋の窓を開け放して庭の緑を眺めていた。
巨大な葉が地面から直接生い茂っている。その大きさに遠近/スケールが狂ってしまう。

場所はウブド・渓谷に面する集落のような中の一室。
しばらくぼんやりしていると、茂みの中からなにかが現れた。
グレーと白…小さな猫だ。
ゆっくりとテラスを横切って通りすぎようとした。
「ヤー…」と声をかけると立ち止まり少し怪訝な顔で見ている。
手招きをすると…入って来た。
いろいろ呻吟したが、太郎吉(タロキチ)…という名前をつけることにした。

デンパサールに着いたのは真夜中だ。
感覚は真冬の日本の余韻を残しているが、身体はすでに熱帯の風に反応し始めていて汗ばんでいる。
通関を終えて車に乗ると運転手のチュイは凄いスピードで飛ばし始めた。
乱暴な運転で、クラクションを鳴らしながら車やバイクをどんどん追い抜いていく。
遥か向こうにテールランプがぽつんと見えてあっと言う間に近づいて…追い抜く…そしてまた追いつき…追い抜く…その繰り返しだ…ああ、いつものアジアだ…。
ヘッドライトに浮かぶ巨大な木々の塊。
チュイとしばらくしゃべっていた。とりとめの無い事。
振動に身体が揺さぶられて軽い車酔いになり話しが支離滅裂になり…
最後は真っ暗な暗闇を眺めていた。

1時間半程経っただろうか、車はスピードを緩めて、通りから小さな路地のような鄙びた脇道に入った。
車がなんとかすれ違う事が出来るほどの幅だ。
突然止まった。セキュリティーチェックのスタッフが鏡を持って車の廻りを一周する。
車の下を調べている。過去にテロが起きた場所なのだ。
藁葺き屋根の下、柱が林立する吹きさらしのロビーに降り立つ。
にこやかな挨拶を受けた。
運転の振動の余韻で身体はまだ揺れている。

部屋に入った。すでに深夜1時を過ぎている。
テーブルの上のバスケットのフルーツをかじりながら、部屋を見渡す。
寝室と居間、テラス、洗面スペースという構成である。
風呂はおきまりの外。
藁葺き屋根/自然石の壁/テラコッタのタイル…虫の声/木々の葉音が聞こえる。
白い壁で切り取られた真っ黒の空で星が瞬いている…。

次の日、目が覚めると窓の外に大きな椰子の木が林立しているのが見えた。
その下を棚田が低く広がっている。
茅を切る人がいる。手を上げて挨拶すると応えてくれた。
農村の中の部屋の一室。すぐ目の前が田圃なのだ。
すでに農作業が始まっている。

タロキチはベッドで寝ている。
今日は暑くなりそうだ。



1.jpg  tarokichi.jpg

1:07 PM

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