有馬裕之(ありま ひろゆき)

1956年、鹿児島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、1990年、有馬裕之+Urban Fourthを設立。 主な作品に 「MA」「太宰府の住宅」「introspective」「ab」「second plate」「studio D」「M/異化された場」。 現在、コンセプトプログラム「earth lounge」を進行させている。

Aug 05 2007

雨の島

屋久島に来ている。雨が降っている。

「レイ・ブラッドベリの本を読んで感想を書きなさいと言われているんだ。」と少年は歩きながら私に言った。
雨が少し小振りになって、有名な滝を皆で見ようとしている時だった。
「雨はブラッドベリにとって大事で、SFを読むなら彼だよ。」ふと何気なく語りかけたらそう答えて来たのだ。
短編集「刺青の男」の中に「長雨:金星に降り続く雨…その雨に耐えかねて彷徨う兵士…移動目標は人工の太陽ドーム」というあらすじの作品がある。
そこまで極端では無いものの、この海の中に孤立した屋久島を惑星と見立ててこの雨の情景を絡めると、ブラッドベリはこの島にぴったりの作家だな…と考えな がら歩いていた。
14歳の少年と屋久島、レイ・ブラッドベリの作品。移動目標は何処?
間違いなく楽しい夏の出会いとなるだろう。

今日も、早朝、まだ夜が明けぬ内から強い雨が降っていた。
暗い明け方の風景の中に山の姿がぼんやりと見える。怖い程の迫力だ。
目前に、海が見えて、海岸線があって、照葉樹林の群生、そしてそこからグンと隆起するように山がそびえたっている。
全てがあって、海⇔平野⇔山と連続して視線を添わせていくだけでパノラマを感じる。
見慣れていない風景。距離/遠近感が縮小されている。そして時間はゆっくりと進行している。
ここでは、晴れ/曇り/雨がばらばらにかつ同時に体験出来て、
向こうでは晴れているのにこちらでは雨、そしてその雨が急に止んで太陽の光が射し始め…そしてまた雨が降り始める。


屋久島.jpg


昨日の夕方…小さな船は素朴な川岸の港を離れて、ゆっくりと川の上流に向かって進み始めた。
中にはおじいさんとおばあさんが十数名。
「屋久島で川流れの会をしますので来て下さい。」と誘いを受けた時から想像を巡らしていたが、
船が進むその緑深い環境は想像を超えていた。
そんな中で、食べて、ゆったりとした時間が流れているが、小さな船なのでよく揺れる。
それがピリッとした緊張感となっていて心地いい。
川の中程に船は止まった。谷の中、廻りは全て照葉樹の森だ。水の流れに従って船は漂っている。
さらに上流を見上げると真っ白な雲に覆われた深い山が見える。
山奥に分け入ったような感覚だ。しかし、場所は海岸からそれほど遠く無い。
おじいさんが歌を歌い始めた。演歌だ。マイクが皆の間を行き来している。
ぼんやりとした頭に、深い緑と空気と水と演歌が浸透して行く。

少年/雨/太陽/深緑/演歌/老人/船…SFの中の「惑星での出来事」のようだ。


1:40 PM | コメント(3867)