
本名、内野正樹(うちの まさき)。1960年静岡県生まれ。82年に編集者となって以来、雑誌一筋。88年より建築の世界に入る。05年4月、DETAIL JAPANを創刊。現在、同誌編集・発行人
溝口とゴダール
DJ 『お遊さま』(一九五一)という映画がありますが、あの映画の京都・嵐山で撮られた冒頭の部分で堀雄二が自分の見合いの相手(乙羽信子)と間違って田中絹代に一目ぼれをする戸外のシーンや、田中と堀と乙羽の三人に行った物見遊山の夜のシーンとかは素晴らしいですよね。
JLG 後者のシーンは、居たたまれなくなって他の二人から離れて一人になった乙羽が、川だか池だかの近くまで降りていき後を堀が追っていくというシーンでしたね。あそこでわたしはいつも、ゴダールを思い出してしまうんです。八〇年代以降のゴダールの映画には木の枝がしだれかかった川のほとりでの印象的なシーンがいくつかありますよね。それと、同じく八〇年代以降のゴダール映画では、鳥の鳴き声がよく入っていますが、あの物見遊山の夜の森ではまさにその「ゴダールの鳥」が鳴いているんです。
DJ 鳥の種類は違うようですが、そういわれてみるとそうかもしれない。ゴダールは溝口のお墓参りをしているぐらいですから、まったくの偶然とは言えないかも……。
JLG そもそも、ゴダールの『気狂いピエロ』(一九六五)や『軽蔑』(一九六三)の最後の海でのパンは溝口ですよね。ゴダールは確か、『山椒太夫』(一九五四)のラストのパンを絶賛していたと思いますが、パンと言えば、『武蔵野夫人』(一九五一)のラストのパンも素晴らしいと思いますよ。
溝口とアクション
JLG 『元禄忠心蔵』という映画はもうひとつ不思議なところがあって、クライマックスであるはずの討ち入りのシーンがまるごと省かれていて、討ち取った吉良上野介の首を持って大石内蔵助が浅野内匠頭の墓前に報告してすましてしまっているんですね。
DJ いつの時代の発言か分からないのですが、溝口は、立ち回りの前と後がドラマだ、チャンチャンバラバラはショーだ、俺はショーは撮らないというようなことを言っています。
JLG 『名刀美女丸』(一九四五)の仇討ちのシーンとかの殺陣なんて見ると、この人ほんとにこういうのに興味ないんだなって感じですが、『新・平家物語』(一九五五)の比叡山延暦寺の法師たちと対峙するシーンは迫力あって、雷蔵の立ち回りも見事でしたね。
DJ 二〇年代には、激しい殺人のシーンのある作品とかも溝口にはあったらしいですね。
あと、サイレント時代にはほんとにいろいろなことをやっていて、二〇、三〇年代にはドイツやソビエトなどの当時の前衛的な試みを真似たりとかもやっていたみたいですね。後年、昔はモンタージュやカットバックも大いにやったけど、今はそんな若造みたいなことはできない、なんて発言をしてますが。